ある日の昼食時。
認知症対策の専門家(川畑智さん)と食事にでかけると素敵なご婦人と相席だった。

「相席失礼します。」簡単な挨拶を済ませ食事をすすめる。
しばらくすると、私と川畑さんとの何気ない会話に、そのご婦人は反応された。

「介護してる側って怒りっぽくなり易いんですか??」

川畑さんの何気ない一言はこうだった。
「介護してる側の人間て、される側からみると怒りっぽく見えるんです。」
「怒っているつもりは無くても、怒ってるように見えてしまうんですよね。」

ご婦人はお母様に対して「怒りっぽくなっている自分」に気づき始めていた様だ。
「つい最近までしっかりしていた母が・・・もうしっかりしてって感じで。」
「寂しい寂しいって、毎夜電話をしてくるんです。仕方が無くて。」
「私だって面倒ばかり見ていたら、気が滅入ってしまいます。」

川畑さんは優しく頷きながら、
「そうですか。そうですか。」
「認知症の方は、認知出来ないことに惑われているんです。出来ない、わからない、そうは思っていないのに。が増えてくる。だからこそ、周りの方々はそれを上手く受け入れてあげると、本人が楽になることもあるんですよ。」

つまり、
あなたが「出来ないこと」それを責めてしまうのではなく、
わたしが「出来ない環境を作ってしまってごめんね!」に視点を変えてみるのだと。

川畑さんは続ける。
「でも、無理してはダメです。ご自分に余裕のある時、やってみてください。」
「きっと上手にお母様との関係を築き直すことが出来ると思います。」

ご婦人の安堵された表情が印象的だった。
知らなかったことを知れた、安堵。
これからやれることを見つけた、安堵。

介護について。
今では多くの方々が必要とされているが、身近なようで情報が手に入らない。
ちょっとした会話だけで、あれ程に安堵するご婦人の姿をみた私は、
介護現場のプロがもつ情報の力を間近で感じたのであった。