認知症専門棟の夕食後の出来事。
キョロキョロと周囲を見渡し始めたAさん。
表情も曇りがち・・・。
近くで会議をしていた私は、会議を中断し、
「あらっ、こんにちは。どうされました?」と聞くと、
「ちょっと、私のほら・・・あれが盗まれた・・・」
「あの・・ほら」と言いながら両手でジェスチャーをして
「茶・・・茶瓶。私の茶瓶が盗まれた。」と訴えるAさん。
Aさんの目の前は、カウンターテーブルのようになっており、
Aさんの目線からは、茶瓶が見えなかったことで、
何だか不安になった様子。
「茶瓶が盗まれたんですか?それは大変ですね。」
「私がすぐに探してみますね。」(探すふりをする私)
「あっ、ここにありましたよ!見つかって良かったです!!」
「せっかくですので、お茶をどうぞ」
「まぁ、ありがとう。助かったぁ。」
「私はそこで、話し合いをしていますので、何かあったらすぐに教えてくださいね。」
「あなたは、利口ね。」
私の深読みかもしれないが、「利口ね。」という言葉が、
すべてを見透かされているようで、私の胸の深い所まで刺さった。
利口と言われずに利口でありたい。私のこれからの課題だ。
認知症専門棟の夕食後。
「いつも通り(定位置)に私の”もの”が置いてないといけませんね。」
と、【環境だけに目を向けて解決を装うのではない!】
ことを、このレシピから学びます。
認知症という状態と、その人自身に向ける双方の目線。
認知症という状態のことは、勉強したらわかるようなるのかもしれません。
ですが、
その人自身のことは、そう簡単にはいきません。
人生の大先輩から発せられた、
「あなたは、利口ね。」
利口ね。という判断が自身でできること。
利口ね。と思わせることができたこと。
利口ね。その言葉から更に認知症を学ぼうとする姿勢。
些細な言葉、されど大きな意味があったのですね。
「あなたは、利口ね。」
何げない会話であれば見落としてしまいそうな、でも、相手の気持ちが込められた、とても大切な言葉のように思いました。
相手の些細な表情や雰囲気、言葉の中にも、その人の気持ちや私たちに伝えたいことが込められている事があります。
そんなサインをサラリと受けとめ、しなやかに対応したいものです。
胸の奥深くまで突き刺さるような思いをし、そこから自分の課題を見出す姿勢に感服しました。