認知症施設から私の介護は始まった。
その施設は回廊になっており、歩き続けるといわゆるグルグル廻れる構造である。

「姐さん」と呼ばれるその女性は綺麗な歩き姿で回廊をグルグルし始める。
そして、出会う度に“ハグ(抱き付く)”や“挨拶”を職員と交わす。万が一にも素通りした職員には、厳しい指導がある。「礼儀がなっていない!」と。勿論、グルグルの最中は何度も同じことをするのである。

姐さんは昔、多数の芸子さんを抱えるお茶屋さんの女将だった。
人から頼られる生活を過ごした方なのだ。

兎に角礼儀には厳しい。自らの姿も美しかった。
見方を変えれば、頑固者。個性が強いといった方が適切だろう。自分が意図しないことはしない。(トイレに行ってほしいなぁ)と近寄ってもダメ。本人が「そうしたい」と思うまでは動いてくれない。

学校を卒業したばかりの私には全てが新鮮だった。そんなこと学校で教えてもらってない。
排せつ介助、清拭、等々の業務知識はある。実習では基本的なコミュニケーション位は経験できた。が、それらだけでは到底仕事ができないことを思い知った。

人の背景を知って(人生を知って)関わる事の大切さ。
その人らしい落ち着いた生活環境を整えること。
気持ちに寄り添うということを教えてもらった。
介護はプランだけではない、人との関わりを持つことこそ本質なのだと思っている。