私は急性期病院で看護助手をしていたことがある。
11年前の出来事だが、当時のことを忘れないどころか今でも大切にしている“介護の考え方”はその時芽生えたものである。

寝たきりの男性で“しゃべれない”方がいた。その方が有名だったのは、排泄介助に入るといつも“お尻を触る”ためだった。どの職員に対しても同じ様に「タッチ」を繰り返す。職員は“しゃべれない”その男性に向かって、触られたことを抗議する様に文句をこぼすのだった。

私はと言えば、(どうせ減るものでもないし)強気の性格もあってそれを特に気にもせず、何の反応も示さないその方へ一方的に話しかける日々を過ごしていた。
数か月後のこと。
普段と何も変わらない日だったが、突然“しゃべれない”その男性が、
「ずっとあなたと話がしたかった」と発声されたのだった。

“しゃべれない”方。ではなかった。全ては聞こえていた。わかっていらした。

介護に携わる時、いつもその方のことを思い出す。思い込んでしまってはならない。
意思疎通の困難な方、認知症という病気でうまく話が伝わらない方。不自由なことが多いけれども、「わかっている」。
自分がしてもらいたいと思う関わり方ができるよう、常に心がけている。

今もこの出来事を忘れずに介護現場で働いている。