まだ20代。若くして交通事故で高次脳機能障害を持った方との出会いで、私は介護を学びました。調理師だった私が厨房から出て、初めて介護の仕事に就いた時の話です。

まだ自分の境遇を受け入れられなかった彼は大きな声を出し、周囲の人へ暴力を振るいます。私はその様子を見ていて恐くて仕方がありませんでした。しかし、他人事では済まされません。その矛先は私にも向くことになります。

いきなり平手打ち。をされました。
それはもう恐怖心で一杯でした。しかし、今振り返って考えていると彼にとっては“いきなり”では、無かったのだと思います。私の「席を替わってください」と掛けたその言葉が琴線に触れた様でした。

言葉は大切なものです。
私が使っているその言葉は、相手にどのように伝わるのだろうか。全く同じように感じて(捉えて)もらえることなど、極めて稀なことなのでしょう。

もう一つは態度です。
なんだか可哀そう。と表面的な優しさで係ることが、本人に負担をかけることも考えねばなりません。全ては前向きに!ことが進むと信じて、彼に寄り添う家族の姿勢には学ばされました。そんな周囲の姿を感じてか、本人が少しずつ頑張る姿を見せる様になったのです。

彼は「漫画を描く」ことを得意にしていました。彼は、同じような世代の利用者さん達に、自分の漫画を見せるようになりました。そうやって前に向かって一歩ずつ頑張れる様になったのです。私にも見せてくれました。これで、平手打ちは帳消しです!

介護には、「適切な介護」があると思っています。誰にとって適切なのか。これはとても重要な考え方です。時には本人になって、時には家族になって、時には介護職員として。そんな環境をこれからも整えていきたいと思っています。