私の過す“ひと時”と同じように、誰もが“ひと時”を過ごせるのだろうか。

そのおばあちゃんは心臓に爆弾を抱えていた。
どんな利用者さんにだって「楽しい」と思える時間を少しでも長く過ごして欲しい。私は常にそう考えながら、自分ができる最大の力で利用者さんに向き合う。

毎年賑わう恒例のフリーマーケット。私が担当していたネイルサロンに、そのおばあちゃんは来てくれた。連れて来てくれた担当スタッフから、状況を共有してもらう。
オシャレが大好き。自分の生きたいように生きてこられた芯の強い方。心臓に疾患を抱えチアノーゼで爪は真っ青。毎日SpO₂を測定すること。計測できなくなると困るので、「ネイルは指一本だけにしておいて。」
私は状況を理解しネイルを始めた。

選んだ色は、濃い紫。
当時のオシャレな方が好んだ色なのだろう。なんだかよくわかる。

一本塗り終え、「はいっ出来ました!綺麗にできましたね!」すると、黙ってもう片方の手を差し出す。「そうですね!こっちまだでした。」

塗っている間、本当に嬉しそうな顔をしてくれた。

一本出来上がるとその度に、大きな目が印象的な笑顔で私の心をくすぐる。片手ずつ交互にその要求を続けられ、残すはあと指一本。
「そうですよね!全部綺麗にしないとね!」(塗ったものは落とせばいい)除光液セットをお土産にすることを決めて、全ての爪にネイルを施した。
塗り終えた時の満足された様子。一日中ご機嫌で、お祭りを楽しんで頂いた。

亡くなられたのはその日の晩だった。

あの時一本でも塗らずに残していたら、私は後悔していただろう。
全ての爪が濃い紫に彩られた手を嬉しそうに見てくれたあの笑顔は、あの時にしかできなかったこと。

朝起きて「おはよう」が言える、現場でこれは当たり前のことではない。人生の終末にも向き合う仕事であることを重く理解する。その上で、過ごす時間がその人にとって素晴らしいものであるように関わることができる仕事、介護。

介護って素晴らしい。