当施設入所中のKさん。

1年程前のKさんは在宅生活が基本で、度々ショートステイを利用されていた。
おしとやかで上品な印象。身辺動作は自立されており、
表現は悪いが手のかからない利用者さんであった。

脳梗塞を発症し、提携先の病院を退院後、当施設に入所された。
以前のKさんとは別人のように表情は虚ろ。
「痒い!」「漏れちゃう」と何度となく大きな声で叫ぶ。
身辺動作は全介助、排泄に至っては職員二人での介助を要するようになっていた。
受け入れる側としてもKさんの変わりように戸惑いを隠せなかった。

何度となく同じことを叫ぶKさんに、
次第にスタッフも苛立ちを覚え、“認知症専門棟でケアした方がいいのでは”
“他の利用者さんに悪影響”等の声が飛び交った。
私自身も全くそう思わなかった訳ではない。認知症に対する意識の低度を痛感した。

ただ、過去と今を知っているスタッフだからこそ、できることがあるのではないか、
Kさんは思いを言葉にして表現する能力が残っているではないか。

私たちが実践する介護の質によって、Kさんの生活の質も大きく左右されると思う。
考えれば考える程、今のKさんだからこそ実践できる関わり方があるのではないかと思うようになった。言い換えれば、自立されていた時のKさんとの関わりは疎遠であったが、今、以前に比べてより密接に関わるようになり、より深くKさんの生活に介入することができるようになったと捉えたい。

あの頃のKさんが思い描いていた未来はどうだったであろう。在宅での生活を続け、平凡にでも幸せに暮らしたかったのではないか...。
それが叶わない今、施設という環境の中でKさんの思いに寄り添って、目の前にいるKさんのために全力を尽くす。その中で、日々、小さな幸せを感じて頂けたら幸いと思う。

また、私自身が1番大切にしている言葉“認知症でも心はあるんだよ”を肝に銘じて日々ケアにあたりたいと自身を振り返った。将来、自分がされたい介護が、“今”自分がしてい介護であるべきと願って。