夜勤明けの起床介助。
要介護度5の利用者Aさんの寝巻を普段着へと交換する。
寝巻を脱ぎ、シャツに目をやると、昨日の日勤帯に飲みこぼしたであろう、
コーヒーのシミが首元から胸元までできていた。

自分で着替えることができない為、必ず職員が関わっており、ナイトケア時に気付かないはずがない、そう思うとイライラした。
“これだけのシミがあっても何とも思わなかったの?…”そんなことを考えて、イライラした感情のままシャツを替えた。

わたしの怒りの矛先は、基本的なケアができていな施設職員にあるはずだが、目の前にいるAさんにイライラが伝わっている。
Aさんも更衣に抵抗の意を示している。悪循環が生まれた。元も子もない状況を自ら作り出したと反省した。

車椅子で食堂へご案内する途中、同室の利用者BさんがAさんの手を握り「おはよう」と挨拶をした。普段、殆ど喋らず目を瞑っているAさんが「おはよう」と返答し、にっこり笑ったのである。

その瞬間、わたしが口にした言葉。「すごい」であった。
普段、殆ど喋らず目を瞑っているAさんが喋ったこと、笑ったことももちろん“すごい”のだが、
AさんとBさんのやりとりが、わたしに与えてくれた影響が“すごい”のであった。

職員が基本的なケアを怠ったことで、不快な思いをしたのはAさんであってわたしではない。
わたしは、更衣介助の1手間が増えたことにイライラしたんだ。
気づけた瞬間、“イライラしてごめんなさい”と心の中で呟いた。そして、Aさんに改めて「おはようございます」と挨拶すると、Aさんも「おはよう」と返してくれた。
そんなAさんとわたしのやりとりをみて、Bさんが「今日は何だかいい1日になりそうだね」と呟いていた。

利用者さんの力は【すごい】。




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