ある施設に伺った時のこと。嬉しいのはこんな私にも話しかけてくれるご利用者さんが居るということだ。

訪れた私が、ふと達筆な書と綺麗な絵画が展示されたスペースで立ち止まり魅入っていたところに声をかけて下さった。

「素敵だろ、その絵はこの人が描いたんだ。」
杖をついたおじいちゃんは、少し離れた場所からこちらを笑顔で眺めているおばあちゃんのことを指して教えてくれた。
絵心の無い私でも、綺麗だと感じたことを伝えると少し恥ずかしそうにしながら絵のことについて話をしてくれた。お二人の話は絵のこと、だけには止まらない。

「私はねまだ90歳。この人(おばあちゃん)は94歳、4歳もお姉さんなんだよ(笑)。元気でねぇ、こないだも娘さんと旅行に行ってきたんだ。」

「そうなのよ。去年は船で海外旅行もしてきたの。元気なうちに楽しいことしたいじゃない。」

お二人とも90歳超えぇ!!!?
お元気な立ち姿としっかりとした口調に驚かされた。「お元気ですねぇ!」私の言葉におじいちゃんが応えてくれた。

「シルバーカーや車いすを使えば便利で余計な力も使わなくていいんだろうねぇ。でも、それやっちゃうと自分の足で歩けなくなっちゃうと思ってさぁ、この杖。杖って結構力が要るんだよ?大変なんだよ。でもね、これ使ってるから今でも歩けるんだ。」

自らの生活の様子を交えながらしてくれるその話に、私は思わず聞き入ってしまった。15分くらい経っただろうか、二人にお礼を述べて場所を移してからスタッフの方が教えてくれた。

おじいちゃんは認知症。

正直たまげた。
絵画の素敵を語る姿、描き手を褒める気持ち、そして誰に言わされるでもなく語られた自らの健康や生活について。話をしてくれる様子は、とにかく元気なおじいちゃんだった。

きっかけは、“展示”された作品。綺麗に飾られたそれには、見る者を惹きつける力があった。“掲示”されているだけではこうはならないだろう。壁一面に貼られた掲示物に魅入ることはあまり多くない。過す空間・環境の中に如何に魅力を込めるか、この展示スペースには魅力が演出されていたように思う。

ちなみに、冒頭のイメージ図に一部写る書について。
書き手は、右片麻痺の方。利き手交換をして、左手ではじめた作品であることを教えてもらった。

人の持つ可能性ってスゴイ。