デイサービスを利用される方の中には、身体の衰えや病気から外出を控えたり、友人や地域との関わりを諦め、自宅に引きこもりがちになってしまう方々が少なくありません。

そんな中でも特に個性的でとても魅力に溢れる92歳女性Aさんが利用されてから、現在に至るまでのことをお話します。

Aさんは、現在娘さんと2人暮らし。Aさんの身の回りのお世話は、全て娘さんがされています。娘さんはお仕事をされていて、私達と同じ介護職ということでした。朝早い出勤もあれば、夜遅くの帰宅になってしまう日もあるようで。デイサービス利用の目的としては娘さんの介護負担の軽減と、継続利用していく事で、Aさん自身が心身の健康を取り戻すという事の2点でした。

Aさんに初めてお会いした第一印象は「少し神経質で、気の強そうな方だな。」でした。職員との会話のやりとりの際にもAさんの返答は端的で、口はいつも一文字に閉ざしていました。辺りをきょろきょろ見回し、周りの利用者さんに話しかけることもありません。
デイサービスを楽しみに来ているという様子ではなかったため、私はAさんのそばにさりげなく居るようにし、利用回数を重ねるうちに世間話が自然にできる間柄になるところから始めることにしました。

段々わかってきたのは、Aさんがデイサービスに来ている理由。Aさんなりの理由です。それは「娘さんが少しでも楽になるように。」という親心でした。楽しみに来ているわけでないことはわかっていたことなので、娘さんに無理やり来させられているのかも、と心配もしましたが、そうではありませんでした。
Aさんは、ぽつりぽつりと娘さんに対する感謝の気持ちを私に話してくださいました。会話をすることでようやく状況が明るくなりました。そこで、
「娘さんが喜ぶようにAさん自身ができることを少しずつ増やしていきませんか?」と促すとAさんが目を輝かせて、
「私にそんなことできるかしら」と意欲を見せてくださったのです。

それからのAさんは変わりました。
車椅子で移動していたのが、歩行器を使用してトイレに行くことができる様になったり。少しずつ食事を摂る量も増えてきたりと、私達にとっても嬉しいことの連続でした。

ところが、その頃に別の課題が発生します。
職員が私のところへ「Aさんが頻尿で困ります」「職員を呼ぶことが多くて他の仕事ができません」と伝えに来たのです。それと同時にAさんの休みが増える様になってしまったのです。理由は「トイレにばかり行っているのが恥ずかしい」とのことでした。

「頻尿になって困っているのは誰なの?」
「呼ばれて仕事ができないって、誰のための仕事なの?」
「トイレに行くのが恥ずかしいと思わせてしまっているのは、私達」

<自分本位の介護とはそういうこと><Aさんの気持ちに寄り添って欲しい>
このように職員に伝え、してしまったことを皆で振り返り、考え直しました。利用がこのまま滞ってしまうなら、私が自分でお迎えに行きたい。申し訳ない、このままにしたくない思いで、相談員を通じてケアマネから利用再開を促してもらいました。

なんとか利用の再開をして頂くことが叶いました。学びを活かし、まずは環境の整備から始めました。
トイレへ席を立っても目立たないような席の配慮。トイレに通うことは健康な証拠と、さりげなく伝えていく。これは、本人だけにではなく、周りの利用者さんに対しても行いました。そして、一番大切なのは「おねえさん、トイレ!」と声をかけられた時に、笑顔で対応すること。忙しそうにしない。
これを職員間で徹底して実行したのです。

Aさんは、今では利用も増回となり「元気になったらここで働きたい!」と言ってくださるまでになりました。その言葉を頂いた時に、自分自身とても感動させてもらいました。Aさんと出会うことができたからこその学びだと、実感しています。