ある利用者さんが自宅で転倒するようになった時期があった。その方の住環境は、室内は2㎝くらいの段差が台所と寝室の間にあり、長い釣竿をしまう棒を杖代わりに使っていた。屋外はシルバーカーを使用して歩行可能。自宅内での歩行ではシルバーカーのレンタルを嫌がっていた。
食事は台所から自室まで自身で運んで食べていた。杖歩行であったため、片手に杖、片手に食事といった様子だった。訪問したら、味噌汁らしきものが床にこぼれていることもあった。

丁度その頃、事業所でバザーの季節を迎えていた。施設には地域の方が持ってきて下さった品物でごった返していた。置き場を探す様な状態であった。その中に、これはバザーに出だせないと判断された「押し車」があった。

ある日の夜に、ケアマネと転倒が増えてきていることについて話し合っていた。屋外ではシルバーカーを使用して転倒が見られていないから、屋内でもシルバーカーを使用してもらえると転倒が減るのではないか、と考えるものの、シルバーカーのレンタルを嫌がっているのが現実。どのように話を進めればよいのか。。考えた。

そこで出てきたのが、バザーに出せないだろうと判断した押し車の活用だった。
椅子型タイプの小さなものでしたが、これをどうにかしてみようということになった。まずは使えそうなものを集めた。おかしの空き缶の蓋、綴じ紐、もう使わない厚手の雑誌。
食事を運ぶために、おかしの空き缶の蓋を使いました。キリが無かったので、釘と金槌を使用して四隅に穴をあけ、紐を通しました。もともと小物入れのようになっていたネットを切り取り、その土台に固定。平行になるようにし、お盆代わりにした。
次に利用者さん本人にとって押し車は軽く、安定感も悪かったため、押し車の重心を下にもっていくことにした。雑誌を縛った。重心をとるのは結構難しく、しっかり押し車につけておかないと、歩行時それが振り子のようになり、歩行し辛くなった。そこを修正し、できる限り押し車にピタッとすることに成功!押し車を磨いて室内でも使えるようにした。

完成するや否や、ケアマネジャーが「今持っていく!」と車を出して持って行ってくれた。
ケアマネジャーが持って行っている間に、その利用者さんを担当しているヘルパーに今日作ったものを説明し、搬送してあるので使い勝手を確認するように指示を出した。
ケアマネジャーが帰ってきて、使うかどうかわからないけど、使ってみてもらえるように伝えてきたことの報告を受け、あとは使ってもらえることを、室内での転倒がなくなることを願うばかりだった。

我々の願いは伝わり、それからしばらくは使用して下さったのでした。転倒も落ち着きました。
ただ、使い勝手が必ずしも良かった!わけではなかったようで。。。その後は、本人が安全に移動できるようにリハビリを頑張ったり、手の届くところに家具を置いたりと生活に工夫をする意識を芽生えてくれました。
あの押し車に込めた我々の思いは、利用者さんの心に届いたのでした。