避難所に移動した要介護認定の高齢者・寝たきりの高齢者は、移動のストレスや急激な環境変化から体調を悪化させ医療機関へ救急搬送される高齢者が後を絶たない状態であった。しかし、医療機関に搬送されないまま避難所で亡くなる高齢者も見受けられた。この時の三陸沿岸の震災直後の気象は、冬へと逆戻りで雪がちらつく状態であった。震災直後から発生した停電と断水は続いたままで、更にはガソリンや灯油が確保できない状態で、多くの避難所は「暖」を確保するのに四苦八苦した状態で、高齢者の健康状態は悪くなる一方で低体温症状になる高齢者が多くみられた。

地震、津波から逃れせっかく助かった命なのに避難所で、その命が途絶えるといった状況が震災直後から続いた。この背景には石油の供給不足と輸送路の断絶があった。このため被災地に対する支援活動が滞り、被災者の辛くて困難な期間が長く続くことになった。更には、救助の為の医薬品や救援物資も滞り、救援物資を緊急に求める声はどの避難所からも聞かれた。一方、在宅にも多くの救援を求める病人や高齢者がいたが、医薬品や救援物資が不足している現状では、ほとんど忘れられた存在となって、在宅まで手が回らないといった状態であった。

被災地でも介護認定を受けている高齢者の中で、高齢者施設への入所を希望している人は多い。しかし介護施設の不足から施設への入所をあきらめ在宅で生活している。また在宅医療の推進によって、これまでは入院が当たり前であったものが、訪問医療や訪問看護・介護を受けることで、治療を受けながら自宅で療養をしている高齢者が多くなっている。
また、在宅医療の進化に伴い、難病の方々も病院から在宅へ移行している。すなわち在宅での療養者は年々増加し、医療ニーズも複雑化、多様化して来ているのである。加えて、独居あるいは老老介護されている人も多くなっている。この様な中で、在宅における震災時の医療、看護、介護についての取り組みは、残念ながら行き届いていないのが現状で、被災地では1ヶ月経っても、在宅まで手が回らず、一部のボランティア活動に依存した状態であった。また、自宅で避難生活を送っていた高齢者は、避難所で生活をしている高齢者よりも生活面では大変な状態が見られた。在宅の介護事業所が震災直後から高齢者の家を1軒1軒訪ね、安否の確認を行った。その中には震災前は、自立した生活をしていたが、地震のあと停電で暖房が止まったため、ひざの持病が悪化し訪れたときには1人でトイレに行くことも、薬を飲むこともできなくなっていた。以前は自立していた高齢者のおよそ半数の人が、寝たきりになるなど地震のあと症状が悪化していたとの報告がある。薬がなかったため持病の発作で死亡するなど、津波からは逃れたのに、そのあと命を落とす高齢者が後を絶たない状態であった。