医療法人社団勝優会が運営する、ホスピタルケア白金高輪は港区にある住宅型有料老人ホームです。
今回特集するのは、藤原圭希さん(訪問看護認定看護師)です。

プロフィール
看護師(訪問看護認定看護師)、保健師、介護支援専門員
大学病院勤務、訪問看護管理者を経て現在に至る。

#6 「家族の存在」

ご本人とご家族とスタッフと

筆者は先日祖母を亡くした。89歳の大往生だった。
父親から”ばあちゃんの調子が悪い”と聞き、お世話になっていたグループホームへ会いに行ってから一週間後のことだった。
認知機能が衰え、夜間はせん妄状態に苦しんでいたばあちゃん。自分の死期を感じてなのか「こわいよー」「たすけてー」と叫ぶ姿を見るのは辛かった。何をしていいものかわからない筆者は、そんなばあちゃんの手を握ることしかできなかった。
しばらくすると、スタッフの女性が様子を見に来て「お孫さん来てくれて嬉しいですねー」なんて話しかけてくれて、身体をゆっくりと擦ってくれた。少しずつ落ち着きを取り戻すばあちゃんの姿をみてありがたいと思った。
家族だけではどうにもならないし、スタッフの方にお任せしっ放しも上手くいかない。本人の望む生活を本人と共に考えて支えてくれる存在が大事だと感じた。

今回は、ご本人とご家族とスタッフの関係についてお届けしたい。
スタッフの方々が入居する方々と接する現場に立ち会わせて頂いた。

船長さん

「ちらっ!(藤原さん)」入室する時には必ずノックの後に”よろしいかしら?”と相手への配慮を感じさせる声かけ。声かけひとつとっても、関係づくりを大切にする思いが伝わってくる。
ベットに腰かけてテレビを見ている男性(おじいさん)は、いかにも堅物そうな方だった。
最近入居されたというおじいさんは病状のせいで会話をすることが難しい。それもあってか、スタッフとのコミュニケーションをなかなかとろうとしなかったそうだ。
そんなおじいさんがいま目の前で藤原さんとは自然にコミュニケーションがとれている。 ”素朴な疑問” 何故なのかを聞いてみた。

「相手のことを正しく理解して関わること」

入居してきた当初からおじいさんが船長さんであることは聞いていた。スタッフの多くは勝手に(釣り船の船長さん=漁師さん)と思い込んでいたそうだ。しかし実はこれが大きな間違い!おじいさんはたくさんの荷物と船員の安全を担ってきた”大きな貨物船の船長さん”だったのだ。

口語でのコミュニケーションが難しいのであれば、筆談をする。今日のご気分を読み取るためにカーテンの開閉にも注意を払う。観ているテレビの内容から関心事を読み取る。こんな些細なことの積み重ねによって相手との関係づくりに努める姿勢は、相手に思いを伝えるのだと感じた。
なるほど観ていたテレビからは「船」に関するニュースが流れていた。

ご本人とスタッフの関係

医療的ケアをしながら生活をおくるおじいさんと看護師さん。一見、簡単に関われそうにも感じるがそうではない。お互いに頭では必要性を理解しながらも、相手を受け入れられるかどうかは別問題なのだ。
在宅の場では特に”生活をおくる相手の姿”を大切にするからこそ、関係づくりをとても大切にする。そのために相手に自分の存在を理解してもらう、そして相手(生活習慣や特性)に合せて関わる(仕事をする)ことを心掛けるのである。

船長の心得① 時間は分刻み
たん吸引のために入室したのが11:47分 準備のために10分後に再訪することを告げて11:57分再入室 終えて次の再訪の約束が12:20分 その都度アラームを約束の2分前にセットして動く。どんなに忙しく他の仕事をしながらもアラームを頼りに時間ピッタリで約束を守る。
船長の時間管理は徹底して厳しい。早くてももちろん遅れてもダメ。おじいさんが大切にする習慣を理解して藤原さんが行動するからこそ受け入れてもらえるのだと感じた。

船長の心得② 指導を受ける
多くの船員を率いてきた船長。面倒見のよい気質を藤原さんは上手にくすぐる。
「海で働く人はなぜカレーを食べるの?」話の流れも自らの近況を踏まえながら、本当に自然に問いかけるのはお見事!元船長のおじいさんは”そんなことも知らないのか?しかたないなあ~”と云わんばかりに筆を執った。

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感心する藤原さん(初めて知るかのように…)の姿にドヤ顔の船長。微笑ましい関係。

それぞれの思い

藤原さんは元船長のおじいさんと接するうちに、彼の経験を何かのカタチで残したいと感じるようになった。
ご家族は既にターミナル(終末期)で余命の限られた元船長のおじいさんが望む生活がおくれるようにと願っている。
亭主関白な家長とご家族とが過ごしてきた時間の中ではお互いに見えなかっただろう一面も、これからの生活で藤原さんは見つけていきたいという。細やかなこと、穏やかな表情、「ご家族の見えないところをカバーする」そんな存在になれるように。
元船長のおじいさんは藤原さんのことを「君だったらよい。明日も君か?」「藤原さんの手を優しく握る」「外出(施設内テラス)で散歩デート」と気を許してくれるようになったそうだ。

ご本人、ご家族、そしてスタッフの思い、それぞれ関わり合う皆の思いが詰まった生活をみた。

文末に、筆者がばあちゃんをグループホームに訪ねた時のことを追記したい。
ばあちゃんが筆者の手を強く握り返してくれていたことは家族にしか過ごせなかった大切な時間だったと思っている。
最期までばあちゃんが我々家族が望む生活を支えてくれた施設スタッフのみなさんには感謝するばかりである。

藤原さんが働く場所

医療法人社団勝優会 ホスピタルケア白金高輪