一言でいうと、何でも自分の思い通りにならないと気が済まない利用者さまでした。
うつ病もあり、自殺企図の症状なのか、急に食事を摂らなくなりました。

口癖は「食べないでいるのになかなか死ねないね…」

気も強い方でしたので、スタッフにも容赦ありません。名指しで、罵倒されることもしばしば。特に女性スタッフには厳しい方でした。
そのうち、夜間せん妄が強くなり、夜勤担当の女性スタッフへの攻撃はどんどんひどくなっていきました。5分おきに鳴るナースコール。
「終末が近い方だから優しくしてあげたい」誰もがそう思っているのに罵倒される。
スタッフのストレスはどんどん大きくなりました。

よくよく観察していると、分かったことがいくつかありました。
私は、普段は他の人には伝えない情報ですが、この時は細目にスタッフに伝えました。

✓女性スタッフの事は、嫁と思っていること。

✓本当は家族に甘えたいのだけど、なかなか家族は来ないから、いらいらして女性スタッフに八つ当たりしていること。

✓他の部署の女性はお客様、いつもお世話するフロアのスタッフは家族と思っていること。

まずは利用者の心理状況を伝えていきました。
しかし、早々スタッフのストレスが軽減されるはずがありません。
そこで…自分が言われて嫌だったことを、口にしよう、言葉にしてみんなに聞いてもらおう…早い話が、愚痴を言い合おうという事です。
特別話し合いの時間を設けたのではありません。

Uさんのお世話をして、部屋から出てきたスタッフに、さりげなく聞くと「おまえなんか役にたたん」「痛いことばかりして…」「気が利かないわね」などなど、涙を流しながら話してくれるようになりました。

当然自分だけが言われていると思っているスタッフに、他のスタッフから声がかかります。「あ~それ、私も言われた。」時が経つにつれ、男性スタッフがフォローしたり、みんな同じ思いをしているのだからと、交代でナースコール対応したりと、お互いに声かけ合うようになりました。
「お世話をしたいのに利用者さんから自分だけ嫌われている」
と思っていたスタッフ全員が、自分の心にためこんでいたストレスを吐きだすことによって、いい感じでUさんのケアができるようになり、最期まで看取ることが出来ました。

Uさんの最期は、たくさんの家族に囲まれ、穏やかな雰囲気でした。
愚痴の言い合い…本当はいけないことかもしれません。
でもUさんのケアにおいては、我々チームケアの出発点だったように思います。