施設の中で落ち着きがない認知症のAさん。
毎日、廊下を何十回も往復し、
初対面の人に微笑みながら近づき短い会話を交わす。
申し送り中のナースステーションに入ることもしばしばで、
スタッフが廊下で話していると、
少し離れて不機嫌そうにジーッと見ている。
そんなAさんをいつも見ているスタッフに
どうあってほしいかを尋ねるとは、
①落ち着いて、座っていてほしい
②グループレクや、集団体操に参加してほしい
③みんなの輪の中で過ごしてほしい
と、スタッフ目線の要望ばかりが目立つ。
本人の様子を観察してみると、
声をかけて着座してもらうと、落ち着きがなくなり
歩き廻っている時が最も落ち着いているようにもみえる。
歩く理由がどこかにあるはず・・・。
カルテの情報をすべて洗い出すがヒントなし・・・。
経験豊富なスタッフに尋ねると、
「地元病院の看護婦長をしていた、と家族が言ってた。」とポロリ。
このおかげで、行動の理由が見えてきた。
廊下を何十回も往復→「巡回看護」
初対面の人に微笑みながら近づき短い会話を交わす。→「相談対応」
申し送り中のナースステーションに入る→「会議参加」
廊下での会話を少し離れて不機嫌そうにジーッと見ている。→「職員指導」
Aさんの人生史を紐解くことで、
本人に合った「ぴったり」の仕事をつくり、お任せすることで、
精神的に、皆が落ち着くきっかけの第一歩になった瞬間だった。
この情報を知らなかったスタッフ。忘れてたスタッフ。
知っていたが気にしていなかったスタッフ。さまざまでした。
自分が持っている情報は、他の誰かにとって最高の情報になることがあります。
人生史をひも解き、情報をストックしてケアにつなげる!!
Let's "stock-care"(ストック・ケア)
点在する情報をナラティブに解読することが出来ると、個々の行動の意味が分かることがあり、そこから介護側が納得する発見があったり、ご利用者の抱えるストレスを解消したり、と発展することもあり得るのですね。
先日、朝の申し送りで、ある利用者様の夜間の様子について、あるフロアのリーダーから報告を受けている時のことでした。
「・・・夜間ナースコールが頻回で、❝何も用事がないのに❞何度も呼ばれたようです。」
!?
『いやいやいやいや!、用事があるから呼ばれたんでしょう!』・・・思わずツッコんでしまいました。
明らかに、「何度も呼ばれて大変だった。」というスタッフの気持ちが表現されていました。
『何か用事があったから何度も呼ばれたんじゃないかな?何か伝えたいことがあったんじゃない?』
この時の状況を、利用者様の視点で捉えてもらえるように働きかけました。
人生史の他にも、家族背景やその日の出来事、体調など、その人の言動に影響を与えている要因は数多く存在することでしょう。
利用者様に表れている現象に結びつく情報をひもとき、その方にぴったりのケアを実践することの大切さに気づかせて頂きました。
どうして何度もナースコールでスタッフを呼ばれたのか。何を伝えようとされていたのか。もう一度スタッフと一緒にひもとき、考えてみようと思います。