医療法人社団勝優会が運営する、ホスピタルケア白金高輪は港区にある住宅型有料老人ホームです。
今回特集するのは、藤原圭希さん(訪問看護認定看護師)です。

プロフィール
看護師(訪問看護認定看護師)、保健師、介護支援専門員
大学病院勤務、訪問看護管理者を経て現在に至る。

#9 「口から食べることを大切にする」

スプーン小さじ一杯ならどんなものでも

高齢者福祉の三原則は世界共通である。「生活の継続」「自己決定の尊重」「残存機能の活用」
時には周囲の支えに頼りながらいくつまで歳を重ねても、自分らしくいたいという欲求を叶え続けることが出来る人は幸せなんだろうと思う。一般的に人間の三大欲求というと「食欲」「睡眠欲」「性欲」だといわれるが、今回は高齢や疾患を理由に「食欲」を奪ってしまう可能性について取りあげたい。
口から食べることは、生活に欠かせない大事なこと。しかし、あらゆるリスクを想定して(~誤嚥の危険があるから~とか、~嚥下の力が弱くなっているから~と、経管栄養や流動食という選択肢⇒栄養摂取)本来の「食欲」を欠いてしまう環境をつくってはいないだろうか。

あるベテラン看護師は「スプーン小さじ一杯ならどんなものでも食べられる。」と「食欲」を示すその方の状態に関わらず食事が提供できるといった。本人が満たされることはもちろんのこと、周囲も(どうせ無理だろう)と諦めていたことが現実となる驚きと嬉しさを感じるのだという。

口から食べることを大切にしてくれる医療・介護職混合チームの存在は心強い。藤原さんのファシリテートでカンファレンスが始まる。

ご本人の食べたいを大切にする

ご利用者Tさんは、食べたいものをはっきりと伝えてくださる。”やきそば”食べたい(よしっ!食べてもらえるようにどうやって準備しようか)しかし気移りが早く、食べたいものはすぐ変わる。”お好み焼き”食べたい。でもどうにか「食欲」を満たしてもらいたい。そう考えるスタッフは、口から食べることを止めない。たくさんのものを口から食べられる状態でも無い為、様子を見計らって(ヨーグルトいけそう、おかゆいけそう)と2~3口でも食べ続けている状態がカンファレンスで共有された。

「やきそば、食べてもらいましょう!」
「ニオイだけでも喜んでくれるかもしれないよ。」
「食べたいという思いを伝えてくれることを大切にしたいですね。」

医療・介護職混合チームが専門用語を使わずにカンファレンスを続ける。

誰ひとりできないと言わない

低ナトリウム血症を予防するためには「濃い目のお味噌汁を飲んで頂こう。飲めれば2杯くらい」。コップやストローの使い方にもたくさんの工夫がある。嚥下をし易くするにはあごの使い方にポイントがあるという。カンファレンスで発言される言葉は全て可能性を追求するためのものだった。
この場面を目の当たりにした筆者は、彼らの存在をとても心強く思った。ご本人の状態や疾患のことはもちろん考慮の上である。その中で、可能な限り思いどおりの生活を支える為の関わり方を考えてくれている。ふと思い出したのは祖父のことだった。
横たわってはいたが意識のある祖父を目の前に、主治医は「もう口からは食べられ無いでしょう」と家族に伝えた。頑固だった祖父は以降、自ら食べることを止めたのだった。

医療・介護職の影響力は大きい。これは、安心も不安も表裏一体だと感じる。それだけに本人とともに常に前向きな考えでいてくれるスタッフの存在は本当に貴重であると思った。

欲をみせられる関係

欲求を素直に伝えられる関係があるからできることでもある。普段からご利用される方々とのコミュニケーションを大切にしている。相手にも「この人だったら」と気を許してくれる信頼関係がある。これは一朝一夕にできるものではなく、積み重ねてきた結果なのだ。
カンファレスで藤原さんはスタッフのあらゆる発言をひとつひとつ大切に取り上げていた。

藤原さんが働く場所

医療法人社団勝優会 ホスピタルケア白金高輪