就職して2年程した頃に出会った、愛おしい“あまのじゃく”さん。
現代で言う“ツンデレ”というところだろうか。認知症を発症されたご婦人である。

(痛っ!!)
「も~また、つねった!」
親指の爪を立てて腕をつねるので、結構痛い。噛みつかれる事もしばしば。

入所しばらくは、つかまり歩きもできていたが、リンパの影響から腕や足がパンパンにむくみはじめ、歩くことさえ困難になっていった。
声をかけると、叩いたり、つねったりと攻撃的な行動をされる。だけど、側に居るとすり寄っていらして、私の肩に頭を預けてくれる。そんな一面もあった。

寂しかったのだと思う。

認知症という症状の中、どんどんわからなくなることが増える。表現の自由が利かなくなる。思うように行動できなくなる。
そんな中、懸命にご自分の思いを唯一誰かに伝える術だったのだ、と思っている。

息子さんはそれをわかっていたのだろう。つねられたことを話すと、
「僕にもやるんです。そうですか、つねりましたか。」と嬉しそう。

行動だけをみると確かに煙たがられる。でも、その方の内面に目を向けると、それらの行動に理由があることに気付くことができる。これこそが介護の醍醐味なのだ!
私はこう考える。
「本来の人がしていることではない、病がそうさせている」これは、「訴え」なのである。

私の右腕には、今でもその愛情表現を受け入れ続けた感覚が宿っている。




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