訪問介護サービスは利用者さんのお宅へ伺うわけで、そこには様々なルールがあります。どのご家庭にもありますよね。些細な決め事や習慣。特有の家の香りもその一例でしょう。
落ち着いて考えれば当たり前のことでも、緊張感漂う現場では、時にそんな些細なことがやたら大袈裟に。そんな現場での出来事です。

そのおばあさん(独身)は、週3回程の訪問介護サービスを受けていらっしゃいました。内容は入浴介助、掃除、食事介助など。特別に難しいことは無いのですが、そのお宅に入るヘルパーが泣いて帰ってきます。「あんな細かく、厳しく、もう嫌です!」嫌と言われてもサービスを受けて下さる利用者さんを放っておくわけにいかず、サービス責任者である私は自らお宅に伺うことにしました。

こういうことか。確かに、厳しいね。

強く印象に残っています。
拭き掃除した後の雑巾。縁側に干す際には、物干し竿の端から何センチ幅で、竿の向こう側に垂れる雑巾の長さは何センチ。と、こんな具合。少しでもご意向に沿えないと、
「あなた何しにきたの!?」

諦める訳にもいかず、とにかく私が担当を続けることにしました。日々ご指摘を頂くのですが、その中で芽生え始めた「納得して頂きたい」という思い。
そんな時私はおばあさんに聞いてみたくなりました。

「今日の私に点数をつけて頂くと何点でしょうか?」
「点数なんかつけられるわけないだろ!!」<即答>

その日以来、毎日聞くことにしたのです。しばらくしたある日、
「今日は何点ですか?」
「0点。」 え? やった!点数がついた! 

仕事が楽しくなってきたのはこれからです。

おばあさんは一人暮らし。話し相手も居なければ、甘えられる相手も居なかった。コミュニケーションとは全てが素直な感情であるはずがなく、時に寂しさを紛らわすように使いたくもない言葉を口にしてしまうこともあるのです。そして自らが長年生活してきた環境の中には、こだわりが沢山あるのです。ご近所さんとのお付き合い、体裁だってあります。こうやって言葉にしてみると、当たり前のことだと思いませんか?一時の感情やその場の様子に流されてはいけません。

私の場合は、この誰にも見えない努力を続けるきっかけに
「点数」という、明確な評価(私にとっては楽しむ要素)を二人の間に持ち込めたことが功を奏しました。勿論細かい評価方法などありません。
点数の全ては“おばあさんの思い”だったのです。

100点をもらえた日。
おばあさんに思いが届いた気がして。忘れられません。