その利用者さん(女性高齢者)は、基本的に話をしようとせず、眼も開けません。「あ~、痛ぇ~」と唸り声をあげて表現をされるのですが、認知症を発症していることもあり、娘さんでさえ、その気持ちを理解するのに手を焼く程でした。

ある日、15時のおやつ介助に向かった時の出来事です。
その利用者さんが横たわるベッドへ近づき、窓のカーテンを開けると、澄みきった青々とした空が目に飛び込んできました。(綺麗だなぁ・・・)
丁度、その窓から見える銀杏の木が、その空を背景に秋の様相を一段と美しく魅せたのでした。

私は、この風景の素晴らしさをなんとか伝えたい。一緒に見たい、と思いつく限りの言葉で何度も何度も語りかけました。
「綺麗な空だよ。」「銀杏の木が映えてね。」

想いは届くものですね。
その利用者さんがパッと眼を開けて窓の外を見たのです。

それは、今まで見たことの無い穏やかな表情でした。眼を開けていたのはほんの1分程だったと思います。定かではありませんが、視力もほとんど無かったと思われます。ですが、確かにご自分の眼で見ていらっしゃいました。

相手のできることだけに目を向けていませんか。
やろうと思えば、方法はいくらだって見つかるのだと教えてもらった気がします。
介助を終えて部屋を出る際「ありがとう」と声をかけて下さいました。コミュニケーションをとることが難しかった、その方から出た感謝を伝える言葉。

仕事に対する自信とやりがいを与えてくれました。